亡き祖母は明治の最後の年に生まれた。いつも笑っていて優しく、働き者で賢い女性だと言われていた。祖母は大変な読書家で、特に日本史と古典を好んだ。大学ノートに和歌を書き溜めていた。
ある春の日、祖父母の家の庭にある杏の木が見事な花を咲かせていた。薄白い花が大きく庭に広がっていた。祖母と母と私は外廊下に並んでそれを眺めていた。
すると、どこからかメジロが飛んできて、杏の枝にとまった。
私たちは身動きをせずに息をひそめて杏とメジロをみていた。枝にとまったメジロはしばらくの間可愛い仕草を見せた。
メジロは飛んで行った。気づくと祖母の姿はそこになかった。
台所に戻ると、祖母がダイニングテーブルの上にうす水色の大学ノートを広げ鉛筆で何かを書いていた。
何を書いているかは聞かなかった。
おそらく、春の歌を詠んでいたのだろう。


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