曽祖父はいつも着物を着ていた。
旅行に出かける時や、何か特別な用事がある時だけはジャケットを着ていたようだ。
けれども、私の記憶の中の曽祖父は、いつも黒い着物を着ている。
曽祖父の家の母屋は、
応接間とダイニングルーム、キッチン以外は、ほとんどが畳の部屋だった。
曽祖母は自分の部屋で静かに過ごす人だったが、曽祖父は人が大好きな人だった。
家の中でも、みんなが必ず通る廊下に面した二間続きの和室に座っていた。
まるで、誰かが来るのを待っているかのようだった。
黒い着物を着て座る曽祖父の前には、いつも火鉢が置いてあった。
季節に関係なく、いつもそこにあった。
火鉢の上には鉄瓶が乗っていた。
火は入ってなく、鉄瓶の中には水が入っていて、時々曽祖父はその水を飲んでいた。
子どもたちが家に来ると、曽祖父は静かに立ち上がり、押し入れを開けた。
そして、小さな引き出しを開けて、お菓子を取り出す。
いつも丸ぼうろだった。
伯父は婿養子で佐賀の実家に帰省するたびに、曽祖父の大好きな丸ぼうろをたくさんお土産に買いこんでいた。
曽祖父はそれを一人ずつに手渡してくれた。
火鉢の前に座る黒い着物の人と、丸ぼうろの甘い匂い。
私の中の古い記憶の一つだ。


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