祖父母の家で宴会や食事をした思い出はたくさんあるが、家の外で食事をした思い出は一度しかない。
ある夏の日、祖父が三人の娘とその家族にご馳走をしようと、お店を予約してくれた。
そこは、島にある宿兼料亭で、新鮮な海産物が評判の店だった。貸し船に乗って島へ渡り、店に着くと、2階の大きな広間には、すでに山のように料理が盛られていた。
魚や貝のお刺身、鮑の煮物。しばらく食事をしていると、祖父が特別に注文した伊勢海老の活け作りが三皿も運ばれてきた。まだ動いている伊勢海老を見てかわいそうな気もしたが、その身は驚くほど甘く、プリプリとしていた。
時々、母が「また伊勢海老を食べたいな」と呟くことがある。そのたびにその願いを叶えてあげたいと思うけれど、あの時のような立派な伊勢海老をご馳走してあげるのは、なかなか難しい。
遠い昔の記憶ではあるのだけど、なぜか、その時の私がショートカットで赤に白い水玉模様のセットアップを着ていたことはまるでこの間のことのように覚えている。
私はその日、祖父にお礼にバナナとチョコを入れたケーキを焼いて行った。生地を天板に流し込んで、焼き上がったケーキを包丁で四角に切り分ける簡単な焼き菓子だ。切ったケーキを一つずつラップに包んで、籠に赤と白のギンガムチェックのキッチンクロスを敷き、その上にケーキを乗せて、祖父に渡した。
祖父は恥ずかしそうに笑って受け取ってくれた。
あれから何十年もの歳月が流れた。祖父母もういない。
でも、あの日の波の音、親戚たちのおしゃべりや笑い声、祖父の笑顔も私の中では色褪せていない。
